紡ぎ、紡がれる。人と世界をつなぐ『糸』の背景
HiKEI(ハイケイ)の TOUGH ORGANIC T-SHIRTS は「アルティメイト・ピマコットン」という綿の糸を使用しています。
その糸と出会えたのは、今、世界中から注目されている紡績工場『大正紡績』さんのおかげです。大正紡績さんの工場を訪れ、実際にコットンが糸になるまでの工程を見せていただきました。
原料であるアルティメイト・ピマを実際に触らせていただき、そのフワフワとした感触を味わったところで、大正紡績営業部の赤松 一人さんにHiKEIのMakoがインタビュー。
20年以上続く確固たる理念
Mako:今回は貴重なお時間をありがとうございます。まず初めに会社設立の話を伺ってもいいでしょうか?
赤松さん:私たち大正紡績は大正7年(1918年)から続く紡績工場です。設立当時は日本各地で他にも大きな紡績会社が設立された時期で、その後50年後ほどして倉敷紡績の子会社になりました。
元々は定番糸を作る会社でしたが、80年代になると海外の工場でそういった定番糸の生産が加速しまして、特にコスト面での競争に追いつけず、段々と業績が下がっていきました。
そこで90年代に普通の糸を生産するのを止めようと決意し、”大正紡績オリジナルの糸”を生産し、それを武器に取り組み始めました。
その時に掲げた大正紡績『5つのポリシー」をそれ以来大切にしています。
「大正紡績5つのポリシー」
- Traceability
原料、原料産地の追跡が可能、農場の生産者の顔が見える原料を使うこと - Sustainability
持続的で安定した物作りをすること - Environment
環境に配慮した原料を使うこと - Dramatic story
商品にはストーリー性が必要であること - Made in Japan
日本の職人さんと一緒に物作りをしていくこと
赤松さん:これらは今の世の中ではよく言われる事になりましたが、私たちは20数年この理念を継続してモノ作りをしています。
顔の見える糸=大正紡績
Mako:ありがとうございます。次の質問なのですが、自社の強みや誇りについて聞いてもいいでしょうか?
赤松さん:一番の強みとなると原料の種類ですね。豊富な綿の種類と量を在庫として持っているため、お客さんの作りたいものに応じて、小ロットから短納期でオリジナリティのある糸を作ることが出来ます。
天然繊維であるウール、シルク、リネン、カシミア、ヤクなどと綿をブレンドして糸を生産することも出来ますし、世界のどこを見てもなかなか真似出来ないノウハウを持っていると思っています。
Mako:今回自分が作って頂いたTシャツの説明をすると、その使用しているコットンから”大正紡さんですか?”と業界の方からは聞かれたりします。(笑)
赤松さん:それはあるかもしれませんね。また最近ではトレーサビリティ 、サスティナビリティ関連に興味を持っている方々から話を聞きたいといったアプローチを多く頂きます。
今は欧米ではオーガニックコットンが普通になって、むしろそうでないとダメみたいな風潮もあったりしますよね。合繊だとリサイクルされているものでないと使うべきじゃないとか。
その際そういう糸はどこで作れるのかとなった時に、先ほど伝えた理念を大切にした上で糸を生産し続けていることが、自分達の強みになっています。
Mako:僕が今回お願いさせて頂いたのも、『どこの農園でどんな方が作ってくれているのか』がはっきり分かる工場さんにお願いしたいというのが理由でした。
赤松さん:今回はそのリクエストを頂いたことから始まりましたよね。今回のTシャツの糸はニューメキシコ州のドーシー・アルバレスさんの農場で収穫した「アルティメイト・ピマ・コットン」で生産しました。
生産者のドーシーさんには2003年に出会い、そこからもう17年のお付き合いになります。
ドーシーさんは26年前からオーガニック栽培をされているのですが、知り合ってからは契約栽培として毎年購入しています。春にタネを蒔くときに今年はこれだけ買うという契約をするのですが、気候の影響を受けやすいのもオーガニック栽培ですので、収穫出来た量が依頼した量に対して多かったりする場合もあれば、少ない場合もあります。
契約栽培ということはその収穫量に関わらず、購入して在庫を抱えるということですから、実際は大変なことです。ですが、関係性を繋げ、継続してモノ作りをするためはとても大切なことなのです。
Mako:継続すること、とても大切なことですよね。そのおかげで今回このコットンと出会うことが出来たのでとてもありがたいです。
嬉しいのは「継続して使ってもらえること」
Mako:次の質問なのですが、仕事をしていて幸せと感じる瞬間はどんなことでしょうか?
赤松さん:例えばブランドさんが特定のコットンでTシャツを生産してくれた際に、その製品の出来に満足して継続して使ってくれること。
そして販売員さんからも、お客さんが、「あのコットンのTシャツ、今年もありますか?」と聞いてくるほどのリピーター(ファン)になってくれていることを聞いた時は嬉しいですね。
自分たちが提供する素材を好きになってくれた上で、長く継続して使って頂けるお客さんがいるということが一番の幸せではないかなと思います。
実際にそういったお客さんがいてくださる事が、自分たちが継続してモノ作りに取り組めることに繋がりますから。
Mako:ありがとうございます。自分も今回生産してもらったTシャツは、購入して頂いた方に長く着続けてくれたら嬉しいと思っています。たとえ汚れたとしても染色し直すことで着続けてもらえるようなサービスも今後展開していきたいです。それくらい本当に丈夫で着心地の良い、最高のTシャツにして頂いたと思っています。
相反する理念と市場に向き合うこと
Mako:逆に、仕事をしていて辛いと感じることはどんなことでしょうか?
赤松さん:そうですね…。今までのアパレル産業は、モノ作りを疎かにして、売れそうなものだけに集中することで、買ってくれていたお客さんが逃げることに繋がっている状況があります。お客さんに継続してついてきてもらうためには、しっかりと理念を持って真面目にモノ作りと向き合うことが非常に大切です。
ただ、理念を持って真面目にモノ作りと向き合いながら工場がまわればいいのですが、工場を回し続けるにはやはり市場である程度の”量”が”売れる”必要があります。
従業員も抱えていますし、工場がまわらなくなること、仕事がないという状態にならないように考えることは、辛いというか、大変ですね。
この辺りは相反するものですので、モノ作りを継続する上で悩ましいことです。
Mako:なるほど…。その難しさと向き合い続けていること、僕自身とても尊敬しています。
転換期のファッション業界
先ほどの話にも少し繋がるのですが、生産現場から見た今のファッション業界はどんな風に見えていますか?
赤松さん:今は転換期だとは思うのですが、先ほど伝えた通り、モノ作りを疎かにしていることで、後継者がいなかったり、日本の色んな産地が疲弊し、問題に直面している状態だと思います。そういう意味ではこれからが心配です。
自分達が糸を作っても、糸を編んだり染めたりしてくれるところが無くなれば、自分達の存在意義がなくなってしまいますので、色んなモノ作りをしている方たちと、パートナーじゃないですが、皆んなでモノ作りをしていかなければいけないと思います。
服自身は人間が着るモノなので、どこかで作られて、無くなることはないと思うのですが、実際に色んな紡績工場もなくなっていっていますし、このままでは日本で作られた服が無くなることに繋がりますよね。
Mako:実際に日本では食品の自給率が低下し、貿易の力で成り立っている状況だと思うのですが、もしそれが遮断されたと想像すると、とても恐くなります。
赤松さん:その通りですね。後は、トレーサビリティやサスティナビリティのことを「海外がやっているから」とか「周りがやらないといけないと言っているから」という理由でしか考えれず、本当の意味で、オーガニックとは何なんだろうか、しっかり理解して取り組むお客さんは少ないという印象です。
Mako:なるほどですね、カタチだけ…といった感じでしょうか?
赤松さん:「そうしなければいけないから」という理由で取り組もうとするお客さんは、企画しても実際には値段が高くて結果やりません。やってみても1シーズンのみで継続はしないというパターンが日本のほとんどのケースじゃないでしょうか。口にはするものの、どこまで本気で考えているのだろうか、と思うことはありますね。
昨日、”オーガニックだから何がいいんですか?”という質問を販売員の方から受けたんですが、正直オーガニックだからといって肌に良いだとかは実証できないので言えることではありません。
言葉の理念として、農場で働いている方や土壌の環境のことを考えてのものになりますから、実際に着られるお客さん対して直接的に何が良いと説明する難しさはありますよね。
Mako:最終的な先を見ていたら絶対にそれが自分のためになるんだと僕は思っています。
赤松さん:そうですね、そこに関して消費者さんの間ではまだまだ意識が広がってはいないという状態でしょうか。欧米の方の間ではそういった意識は広がっていますね。
服に関する豆知識(コットンについて)
Mako:今日は色々と貴重なお話をありがとうございます。最後になるのですが、生産側の方からすると当たり前のことでも、僕らにとっては知らないような、服に関する豆知識を教えてくれませんか?(笑)
赤松さん:何があるでしょうか…。(笑)
例えば、綿というのは超長綿と言われる繊維の長い綿が良いと認識されていることが多いんですが、髪の毛と同じで綿の繊維には長さと太さが関係してきます。
触った時の風合いというのは、繊維の細さも重要になってきます。太ければ硬くなりますし、細ければしなやかになります。
例えばアルティメイトピマ(HiKEIで使用しているコットン)と、インドのスビンゴールドというコットンは同じような長さの繊維なのですが、アルティメイトピマの方が太く、スビンゴールドの方が細いので、同じようなものを作ったとしても、アルティメイトの方がしっかり、スビンゴールドの方がしなやかに仕上がります。
Mako:なるほど!
通りで今回のTシャツはキレイ目になり過ぎず、適度な光沢でしっかりとしたハリのある風合いになるのですね!
今回のTシャツの伝え方、そしてそこから価値を感じてくれる方に単純な「消費」としてではなく、「所有」する気持ちで購入してもらえるように頑張りたいと思っています。今日は貴重なお時間をありがとうございました。
赤松さん:頑張ってください!また是非いらしてくださいね。
インタビューを終えて
今まで糸に対してそこまで関心を持ったことはありませんでしたが、話を聞いていくうちに、製品表示タグの「綿 ○○%」からは想像もできない沢山の物語を知ることができました。
それと同時に、世の中でサスティナビリティやエシカルという言葉がメジャーではないころから、自社の理念のもと生産者の方々との関係を大事にしてきた大正紡績さんの功績の大きさも…。
洋服もビオワインやスペシャリティコーヒーのように、原料について知ることで楽しみの幅が広がるように感じます。