Tシャツの背景を紡ぐ人々−パターン

若かりし日の想いを紡ぐ、人を考えたパターン。

今回のHiKEI(ハイケイ)のTOUGH ORGANIC T-SHIRTSのシルエットは、洗練されたオーセンティック感を兼ね備えた上で、どんな生活スタイルや状況にも左右されずに着こなせるオーソドックスなシルエットを理想としていました。

今回そんなパターンを引いていただいたform making 代表 / パタンナーの高井 政伸さんにお話を伺いました。

自分のブランドを立ち上げる道中で得た知識と技術

Mako : 本日は貴重なお時間をありがとうございます。まず初めにこの仕事を始めたきっかけについてお聞きしてもいいですか?

高井さん:自分は元々学生時代から洋服が好きで、自分のブランドを作りたいと思っていたんですよ。

その時から洋服を作る上で洋服の形、シルエットが一番重要だというのを持論として持っていて、そこに日本人特有の平面の知識を得て擦り合わせていけたら、と思っていました。

そこでまずは平面のパターンを学ぶために、とある外注パターン会社に勤め、その会社でお世話になった方が独立されるときに一緒について行くことにしたんですね。

その中で実際に自分のブランドを立ち上げて展示会も一度やったのですが、このままの自分の力では中々食べていくのは厳しい、という現実に直面しまして。

すると丁度その頃に、学生時代の友人が外注のパタンナーを探していると耳にしまして、このタイミングでCADを購入し、外注パタンナーとして仕事をしながら技術をつけ、ある程度のビジネスモデルを作ってから自分のブランドに集中できたら、と思ったことが仕事を始めるきっかけになりました。

Mako : このお仕事はどのくらい続けているのですか?

高井さん:12年ほどになります。ここまでこの仕事を長く続けるとは思いませんでしたね。(笑)

Mako : (笑)やはり早くブランド作りの方に向き合いたいという気持ちが強いですか?

高井さん:その気持ちは勿論あります。ただ、仕事を続けている中で業績も年々上がってきてはいるのですが、お客さんは私個人にパターンの仕事を依頼してくださっているので、どうしても自分の仕事が自分から手離れすることがないんです。そういった現状から、ブランド作りのみに集中するというのは、今はまだ難しい状況です。

ただ以前自分のブランドをやっていた知識と経験は確実にこの仕事に生きていると感じています。モードファッションのブランドさんからの依頼にも、ある程度しっかりレスポンスできていますし、仕事自体を楽しめていますね。

また仕事のスピードという点でも、先ほども言った前にいた会社が業界の中でもスピード重視の厳しい会社でしたので、そこで培われたものがあるなと思います。

『仕事が速い』という自信は持っていますね。

夢に着実に向かっている実感と夢の原点

Mako : ブランド作りに向き合ってきた中で得たものが、全て今の仕事に繋がっているということですね。その仕事の中で幸せだと思う瞬間について教えていただけないでしょうか。

高井さん:ん~ありますかね…?(笑)
ただ言えるのは、学生を卒業して20年近く経ちますが、この仕事を続けることが出来ていること自体ですかね。依頼してくださる方がいて、仕事を続けることが出来ています自分がやりたいことに向かって、確実に進むことが出来ている、諦めずに済んでいる、ということだけでも幸せと言えるのかもしれません。

ただ仕事を通して日々感じるような幸せではないので、安易に言えることではないですが…。

Mako : なるほど…。先程の話に戻るのですが、ブランドを始めたいという最初のきっかけはなんだったのでしょうか?

高井さん:服を一番最初に好きになったキッカケが山本耀司さんの服を見たことでした。パターンにものすごく力が込められている服を見て、とても魅力と憧れを感じ、こんな服を作れるようになりたいなという気持ちを抱いたのがスタートだったと思います。アパレル会社で働くのではなく、自分自身で服を作りたいと思いましたね。

業界の負のサイクルが生む似通ったパターンを引く憂い

Mako : 原点のお話が知れたのはありがたいです!幸せとは逆に、仕事をしていて辛いなと感じることはどんなことでしょうか?

高井さん:これまた難しいですね。(笑)
真面目な話で言うと、一日いろんなブランドさんのパターンを何型も手がけさせてもらっていますが、似通ったようなデザイン、シルエット、どのブランドさんでも同じような服が多いということです。

これは業界自体の問題になるのですが、ほぼ全てのブランドが、”売れた”実績のある服しか売れない、という考え方になっているのが現状で、企画としても売れるような服しか提案しない、全てのブランドがどこかのブランドの後追いになっている、というアパレル業界の負のサイクルがあります。

そのようなマーケットインの状態になっていますので、展示会をするにしても、この服が売れた、売れていないというバイヤーさんの意見が強くなりすぎてしまい、その意見を迎合しすぎた状態を起点にモノづくりが始まってしまうので、プロダクトアウトの流れを感じることがほとんどなくなっています。

勿論仕事を通して、段々と前よりもいい仕事を仕上げることが出来たという小さな喜びはありますが、毎日同じような服を形作っていくことが続くと、どうしても楽しくは無くなってきますし、より大きなサイクルで考えるとこの業界の状況は良くないな、という印象がここ何年間かは続いていますね。

Mako : 業界や市場の状況は世界的に見てもそうなんでしょうか?

高井さん:その傾向は見られますが、日本は特に顕著ではないかなと思います。

隣の韓国の方がまだハイブランドが強かったりすることを含めファッション業界に勢いを感じますが、それに対して日本はドメスティックブランドに力がなくなってきていますし、このままでは淘汰されてしまうだろうなという危機感は感じますね。

勿論そのブランドのデザイナーさんの意思が込められたモノづくりをしている小さいブランドもありますが、このデザインが、モノが良いから、というよりはこの値段の割には良いというお得感のある服しか売れない、というファッションそのものの価値の低下は明らかです。

そうなるとどうしても面白いモノは生まれにくくなります。

世にあるブランドの体力とファッションの価値の低下

Mako : 確かに僕個人も面白いと思うブランドは年々減ってきているように感じます。ハイブランドが作ったものを後追いでファストファッションブランドが真似して生産すれば、消費者の方からすると”安いしこっちで良いや”、と思ってしまいますよね。

高井さん:パターンを引かせていただいた今回のHiKEIのTシャツでは、ここはこんな風に、と色んなこだわりのある依頼を最初に頂きましたよね。

ですがその他のブランドさんで多いのは、どうやったら安く作れますか、という依頼が最初に来るんです。

年々コストカットが進み、多くのブランドさんがより安く作る方法ばかりを考えてしまっています。

最近耳にした話では現金の回収のために、店頭に4週間並べて売れなかった商品は全てアウトレットに回す、ということを会社自体が決定している事例もあるようです。

それだけ多くの会社自体が、そのブランドの価値を高める、保つための我慢が出来る体力がなくなってきている状態です。

勿論、経済的なことですのでしょうがないとは思っていますが…。

Mako : 僕個人としてはそういった状況だからこそ、このTシャツ然りなのですが、このモノを作ってくれた人だったり、原料、素材にかかったコストに価値を見出してもらえるようなブランドにして行きたいと思っています。その方がお客さんからしても、最初は高いけど、後から後悔しないようにと思ってもらえるのではと…。

高井さん:そうなるとどうしてもその人の服の買い方にもよりますよね。

実際にお店に行って服を買ってくれる人だったら、その強みだったり思いを伝え、実際に着てもらって決めてもらうことが出来ますが、現代のコピペしたようなテキストの説明を参考に、ネットで服を買うことが多くなってしまった日本人には伝わりづらいですし。

今でも服に関心のあるアツい人はもちろんいますが、今まで服に興味あったはずの多くの人の興味が薄れて来ているのは感じます。

人の体の形に寄り添った、業界の問題に抗うモノづくり

Mako : 僕が中学・高校時代の頃は周りも洋服に対する憧れをもっと大きく抱いていた気がするんです。現代の人々のファッションに対する熱量が低下した理由って何だと思いますか?

高井さん:おそらく時代の変化と共に生活も変化し、そのお金を服以外に使う選択肢が増えた、ということではないかと思っています。所持しているお金の分母が増えた訳ではないので、どうしても人が服にかける金額は減ってしまいますし。

ただ、そのスパイラル自体はしょうがないという考えではあるのですが、そうだとしても安易に安いものに飛びつくのではなく、頻度が減ったとしてもより多くの選択肢の中から高くても良いモノを買うことは大切だと思っています。

もう少しこの会社を軌道に乗せた上で、その世の中の状況には”抗っていく”気持ちでブランドをやっていきたいです。

Mako : ありがとうございます。最後になるのですが、パタンナーさんである高井さんの視点から、良い服の見分け方や、消費者の方が選ぶときに役立つ豆知識みたいなものを教えて頂けませんか?

高井さん:ええええ(笑)
…そうですね、単純なところで言うと服を平置きした際に、ペタッとなってしまう服はあまり良くないです。

パターンを引く際に立体ではなく平面でしか見れていないというか。人間の体の形、立体を理解し意識しなければそういった服になってしまいますね。これはパターンを引く際にとても重要視していることです。

Mako : 確かに!当たり前ですがカラダって立体ですもんね(笑)服を選ぶ時の参考にさせていただきます。
今日は色々と貴重なお話をありがとうございました。とても参考になりました!

高井さん:着実に力をつけて、実現したいことに向かって頑張ってください!応援しています。

インタビューを終えて

パタンナーの方にお話を伺う機会は今回が初めてだったのですが、話を伺いながら、改めて高井さんへパターンをお願いしてよかったと感じました。

それはモノとして良いモノができたということはもちろんですが、業界や自分の現状に満足していない、カウンターカルチャーのようなモノを高井さんに感じ、憧れ、共感したからかもしれません。