Tシャツの背景を紡ぐ人々−裁断/縫製

切って、縫って、「当たり前」をつくり上げる。

紡績から始まり、編み、染色、とHiKEIのTOUGH ORGANIC T-SHIRTSに関わって頂いた皆さんの背景を知るべく辿ってきた糸の旅。

そのTシャツの最終仕上げである縫製の依頼をさせて頂いた、株式会社マキカンパニーさんの生産部部長の中野留味子さんと工場長の池上美奈子さんに、この旅の最後のお話を聞かせて頂きました。

密な意思疎通から生まれる誇りあるモノづくり

Mako : 本日は貴重なお時間をありがとうございます。まず初めにマキカンパニーさんの会社が設立されたきっかけについてお話を伺っても宜しいでしょうか?

中野さん:まずマキカンパニーの母体となったドッグ繊維株式会社が設立されたのが1963年になります。ドッグ繊維では製造アパレルさんから仕事の依頼を受けて製品を作り、アパレルさんがその製品を小売店に対して販売する、製造アパレルさんと小売店さんの間を担う製造メーカーとしての業務が主体となっていました。

その中でとある小売店さんから直接取引を行う連絡を頂き、コストカットと流通の短縮化、製造業として様々なメリットがあることから、別途会社を立ち上げ取引を実現することを目的として1984年にマキカンパニーが設立されました。

Mako : ありがとうございます。大手小売りさんのP・B(プライベートブランド)を作ってくれという依頼を受けたのがマキカンパニーさんの始まりになったということですね。

次にマキカンパニーさんの強みや長所について教えて頂けないでしょうか?

マキカンパニーさんの品質を支えるひとつである自動裁断機

中野さん:自社の強みは企画を持っていることでしょうか。マキカンパニーでは縫製はもちろん、自社で企画、デザインも行った上で生地屋さんと協力しながら、仕上げまでを一貫して行い製造することが可能です。それはつまり自社のデザイナーと実際に現場で手を動かすことになる製造側が直接コミュニケーションを取ることが出来るということです。

実際に企画されたものにより近い状態で製品を仕上げるために、製造側が工夫・改善を行なっていくには、他の会社さんとのやり取りの様にクッションを挟まず、意見を直接聞ける、言える、意思疎通が取れるということは非常に大切になってきます。

Mako : なるほど!僕自身Tシャツを作らせてもらう過程で、アパレル業界のことを学ばせてもらいましたが、シンプルなアイテムであるTシャツ一つにしてもそれぞれの工程でしっかり分業されていることに驚きました。

物事には良い面と悪い面の二面性がある様に、当然その”分業”がネックになる場合もありますよね。

中野さん:そうですね、伝言ゲームではないですが、間に挟まれる人が多くなればなるほどにデザイナーさんの要望が製造する側に本来のニュアンスとはズレて伝わってしまう可能性は高くなってきます。

私たちの場合は、例えばですが、上がってきたサンプルから意見をやり取りする際、”この部分の縫製の実現がこのままでは厳しいんですよね…”という様な、実際に縫製を行う人ならではの現場の意見も、自社のデザイナーに対してより密なフィードバックが出来ます。

その結果、より良い製品の仕上がりに向けての改善提案、デザイン修正に繋いでいけることは強みだと思います。

Mako:密なコミュニケーションから生まれるモノづくりに対しての誇りを感じます。仕事をしていて幸せだと思う瞬間ってどんなことでしょうか?

商品が世に出る前の作り手同士のぶつかり合い

池上さん:MakoさんがTシャツの縫製の仕上がりに対して喜んでくれて、お褒めの言葉をくれたように、お客様の要望にしっかり応える良い仕事が出来たという実感と共に、”マキカンパニーさんにお願いして良かった!”という言葉をもらえたときがやっぱり一番嬉しいですよね。(笑)

私たち現場の工場側の人間はモノづくりにおいて一番末端にいます。

例えばまずサンプルを仕上げる場合、書類に記載してある仕様通りに物事を進めていきますが、実際にこのままモノづくりに入ってしまうと、指定された素材や仕様が原因で、生産の過程でどうしても不良品が増えてしまう可能性がある、といったケースもあります。

その際は、よりお客様の要望に近い状態で製品を仕上げるため、こちら側からお客様に対して提案をしていかなければなりません。

それは勿論、難しいことを楽して避けようというような事ではなく、時間を長くかけたとしても実現が難しいことに対しての改善だったり、少しでも現場の流れを良くするための提案になのですが、そのやり取りの中でデザイナーさんと揉めてしまうことなどの葛藤も生まれてきます。

お互いにとって良い気分になるものではありませんが、実際の工程に入る前にそのサンプルの段階でお互いにしっかり意見の擦り合わせを行なっておくことは、良いモノづくりをするためにとても大切です。

池上さん:なんとか現場側からの意見が通り、実際の工程でも工場がスムーズに流れ、その結果、より良い完成度の高い商品をお客様にお届け出来た時は、あの時にお互いにぶつかり合ったことが報われたような達成感に繋がりますし、店頭でその商品を選んでいる人だったり、道端でその商品を着ている人を見かけたりなんかすると、もうそれは本当に嬉しいです。(笑)

実際に縫製していて、この商品はイイな、売れそうだなって思っていた商品の追加発注が来た時なんかは、勿論デザイナーさんのデザインが良いからなんですけど、弊社の縫製も良かったんだって自分の中で評価出来る喜びがあることも続けていける要因になっているかなと思います。

中野さん:普段は辛いこともありますが、”マキカンパニーさんにお願いしたあの商品は良く売れています、マキカンパニーさんにまたお願いできますか?”と、幸いなことにそんな声をメーカーさんからは頂けていることは、長年誇りを持って地道に続けていたことが段々と認められ始め、私たちの工場のブランド化に繋がっている事を感じ、心が安らぐというか、とても嬉しいですね。

迫る納期と異なる立場が生む葛藤

Mako : 普段当たり前のように店頭に置かれているブランドの商品の一つ一つに、そこに関わっている人たちがいて、その人たちの思いと努力で自分たちが服を選ぶ喜びを感じることが出来ている、そんなありがたさを改めて感じることが出来たお話でした。ありがとうございます。

さっきの質問とは反対に、仕事をしていて辛いことってどんな事でしょうか?

池上さん:先ほども言いましたが、縫製工場である私たちの立場は全体の中では末端になりますので、それ故の辛さがあります。

納期というのは、生地から始まって、裁断、二次加工がある場合は二次加工、それらが順序良く流れてきて初めてここが納期だと着地するのですが、生地の納期が遅れたり、不良があったり、裁断が上手くいかなかったりでズレ込んでくると、納期は全く変わらないけれど、現場はそれに合わせなくてはなりません。

サンプルの段階での修正要望が通らなかった箇所がネックになる場合もありますし、原因は様々ですが、現場の流れを止めざるを得ない状況になる事があります。

それでもお客様の要望である最終納期は決まっているので、出来ることをやるしか無いのですが、変な商品を作るわけにはいきませんし、スピードを上げるとミスも多くなり、悪循環に陥ることもあり、その辺りの調整は毎回戦いのようで、日々辛いですね。(笑)

中野さん:そこは自社の弱みの部分になるかもしれません。その生産過程が流れなくなる不備が外部の会社から流れてきたものであれば、それを理由に納期の延長を依頼することは可能ですが、自社でやっている過程から生まれたものであれば依頼することは出来ませんよね。

同じチームの一員であるスタッフの誰かのミスが、毎回チームの中で一番最後の工程を担う工場へのしわ寄せになってきます。それは同じチームだとしても職種が違えば、本当の意味でこういった工場の辛さは分かり得ないですし、逆に伝えることも出来ないので…。

当たり前の素晴らしさ、当たり前ではない努力

池上さん:納期が詰まれば詰まるほど、勿論手抜きはしていませんが、納期に間に合わせなければいけないという時間の焦りからどうしても見落としが発生する確率が高まり、不備のあるその一枚が店頭に並んでしまうといったことが起こりえる場合があります。

そうなるとせっかく喜んで選んでくれたお客様をがっかりさせることになりますし、どうしてそんなことが起こったのか?という矛先は、検品に問題があったのではと工場側の責任になってしまいます。

その責任があるのは勿論理解していますし、申し訳ないとは思っていますが、その一枚のミスから厳しい評価を受けた時は、普段これだけ工場の皆は頑張っているのになあ、と悲しくなってしまうことがあります。

中野さん:納期は守って当たり前ですし、品質が良いことも当たり前ですよね。当たり前のことは基本的には評価されませんが、悪いことが起きた時に厳しい評価を受ける、それも辛いですが当たり前だとは思います。

ただ、普段これだけ頑張っている中でたまたま一枚二枚のミスが起こったんだろうな、という気持ちと、そしてそれは一枚二枚だったら良いということでは勿論なくて、絶対に起きてはいけないことである、という気持ち。

そんな答えの出せない葛藤から生まれる辛さはありますね。

Mako:とても難しい問題、難しい部分ですね…。答えをただ突きつけることが本当の意味で毎回良い方向に繋がるわけではないという事でしょうか…。とても考えさせられました。

次の質問なのですが、現場から見た今のファッション業界はどのように見えますか?

ファッション業界の光と影、モノづくりに込められた願い

池上さん:私たちが日々縫製をしている商品から考えると、シンプルな商品は少なくなってきており、他と違った複雑な商品でなければ売れなくなったのかな、という印象です。

例えば単純な白のトレーナーを探すのが難しく感じるほど、シンプルな商品を探す方が難しいのが現状かもしれません。また、一つの流行を追いかけ、また新たな流行を追いかける傾向が顕著な気もします。

何年か前にはファスナーがついた商品の縫製が始まるとそのような商品ばかりになったり、ある時はタック物の商品ばかりになったり、何かが流行って売れるとその売れた商品に似たものの発注の波がくる、そんな感じはしています。

Mako:今のお話からファッション業界が流行を作るものだったものが、追いかけるものになってきているという記事を読んだことを思い出しました。

中野さん:そうですね。売れるものを作る、それは当たり前のことではあります。ただその中にもただ目先の利益を追いかけるのではなく、周りと違った、価値ある光あるものを生み出すことがあって良いのではないかと思います。

今回作らせて頂いたHiKEIのTシャツの様に、シンプルながらもそのモノ自体の価値が上手く伝わる様に作られている、そんな商品って大切ですよね。

ファッション業界は煌びやかな世界に思われ、特にデザイナーさんなどクリエイティブな方達に目が向けられがちですが、実際には工場の現場で手を動かしている人たちを含めてこのファッション業界のモノづくりは成り立っています。

パタンナーさんであったり、デザイナーさんに比べると一見地味に見えるかもしれませんが、単純そうに見える作業の中にも価値があり、モノづくりにおいての重要なこと、関わっている人が大切にしていること、そういったことが少しでも明るみになり、一般の方に届くようになるといいですね。

Mako:向き合えば向き合うほどに難しい問題があることを僕自身感じていましたが、今回のお話でより一層その難しさについて深く考えることが出来ました。それでも自分に出来るやり方で、僕なりの挑戦を続けたいと思います。

最後にはなりますが、縫製工場さんだからこそ知っている、消費者の方に役立つ豆知識を教えていただけませんか?

改めて自分の服を縫製の基準から見直す

池上さん:縫製の基準によってどれだけ密に縫製してあるかというのが分かります。3センチの間にどれだけ針が入っているのかが基準になるのですが、日本では13針から15針というのが一般的ですね。

この幅が細かければ細かいほど密に縫われていますし、広ければ広いほど手間がかかっていないというのは単純に言えるかもしれません。なので効率を重視して生産される海外などの工場のものであると、かなり間隔が広い場合がありますね。

自分のTシャツを見てみたり、店頭で服を選ぶ際に見てみるといいかもしれません。

Mako:初めて知りました!自分のお気に入りの服をその視点で改めて見てみようと思います。今回は業務中にも関わらず貴重なお時間を割いて頂いて本当にありがとうございました!

池上さん、中野さん:また是非いらしてくださいね。こちらこそありがとうございました!

インタビューを終えて

私たち消費者の元へ不良品が手元に残ることはほとんどありません。もし不良品であれば、交換もできるし、返金もしてもらえます。それは当たり前です。

しかし、その奥には『ミスがあっては許されない』という当たり前に向き合う人たちがいることを忘れたくないなと思えたとても気持ちの良い時間でした。