Tシャツの背景を紡ぐ人々−生地染色(染め)

継続される柔軟で果敢な挑戦が人の思いを紡ぐ

今回のTraceable journey projectsで製作したHiKEIのTOUGH ORGANIC T-SHIRTSが出来るまでの糸の旅。その旅の始まりで綿が糸になり、編まれて生地になり、そしてその次の工程が生地の染色になります。

今回は染色を依頼させて頂いた土田産業の橋本さんにお話を伺いました。

長年の歴史の中で培われた「染色・整理・特殊加工」の技術と挑戦

Mako:本日は貴重なお時間をありがとうございます!土田産業さんは設立されてどれくらい経つのでしょうか?

橋本さん:大正2年に設立されまして、今年2020年の10月で創業107年になります。この群馬県の桐生という場所は、当時は絹の産地として発展しておりましたので、元々は絹織物を生産する事業を営んでおりました。

時代に合わせて柔軟に変化し続ける中で、現在は長年に渡って培ってきた技術で生地の「染色・整理・特殊加工」に継続して取り組んでおります。

Mako:107年ですか!とても長い歴史があるんですね!

橋本さん:そうですね。私たちはその歴史の中でそれらの技術を生かし、時代によって変化するお客様のニーズにも応える事が出来るよう、絶えず挑戦し続けています。

染色では仕上げの方法だったり脱水の方法だったりを素材に合わせて変えたり、特殊加工の方では、ポリエステルや綿など様々な素材に対して、抗菌や撥水など様々な加工技術を施したりする事でファッション関連の製品のみに限らず、肌に触れるサポーターなど、医療系のメディカル系の製品にも対応させて頂いております。

また2011年には「染色・整理・特殊加工」の技術を生かして、オリジナルブランド「色創館」を立ち上げました。こちらの事業では、手染め製品の製作・販売や、オーダーメイドでの染色加工、衣類の染め替え事業などを行なっております。

培った技術で「ヒト・コト・モノ」の想いを紡ぐ

Mako:このオリジナルブランドである「色創館」の事業では、どのようなお客さんと関わる事が多いですか?

橋本さん:全体としてはブランドさんからのリカラー(染め替え)の依頼が多いですが、一般のお客様からもクリーニング屋さんを通してだったり、直接連絡を頂いての依頼だったりも頂いていますね。

色あせてしまったり、汚れてしまったけれど、その服に思い入れや物語があり、もう一度その服を着たい、そんな想いに応えるため、様々なリカラーに対応、提案させて頂いております。

元の色を生かしたグラデーションだったり、思い切って全く違った色に染め直したり、希望に合った色に染め直すことでその服を捨てる必要が無くなり、大切な服の思い出と共に着続けて頂けたら嬉しいなと思っています。

また、2018年には敷地内にある倉庫をリノベーションし、ニッティングカフェ”Cafe mimimo”をスタートしました。

染色工程で生まれるTシャツヤーン(耳糸とも呼ばれる)

“mimimo”とは染色の工程で通常処分されるはずの布ミミからアップサイクルなTシャツヤーン(糸)として生み出されたオリジナル商品で、「ヒト・コト・モノ」をコンセプトとしてmimimo(糸)から沢山の人と人の繋がりを生んでいけるような、そんな想いが込められています。

こちらの”Cafe mimimo”ではカフェとしての利用は勿論、mimimoを使っての編み物も楽しんでいただける施設になっています。

今回の取材場所にもなった「Cafe mimimo」

Mako:土田産業さんの長年培ってきた技術と、お客さんの声や時代の変化に柔軟に応えようとする姿勢がこれだけ多くの事業を実現しているんですね!今回染色して頂いたHiKEI Tシャツも長く着続けてもらえるような丈夫な生地で出来ているので、もし汚れたりしたとしても、そのようなリカラーを提案する事で、お客さんに長く楽しんでもらいたいと思っています。

「多品種・小ロット・短サイクル」の対応から生まれる”ありがとう”の一言

橋本さん:私たちの強みは先ほども軽く触れましたが、HiKEIさんのそのような声にも応えることの出来る、「多品種・小ロット・短サイクル」の対応が可能なことです。

ファッション、インテリア、メディカル系の製品や、その生地に関しても開き、丸胴、製品染め、リカラーと、様々な依頼に合わせて染色だけでなく製品の仕上げまで一貫して対応出来ます。

染色工場としてはあまり多くはないBtoC(企業が一般消費者に対象に行うビジネス形態)の形を実現出来ていますね。

Mako:最近は世間でそういった一般のお客さんからの依頼が増えてきているとよく耳にしますが、実際にBtoCの対応を始めたことでどんな事が変わりましたか?

橋本さん:やはり今までの企業相手の取引だけでは聞く事が出来なかった、一般のお客様の声を直接聞く機会が出来た事は大きいですね。

今まで気付くことが出来なかったことに気付くことにも繋がりますし、何より直接お客様から”ありがとう”の一言を頂けるのが本当に嬉しいです。

そんな生な声を直接頂けた時は純粋に、この仕事をやってて良かったなあと、励みになります。

Mako:お客さんの生の声が届く事が一番嬉しいと、他の工場さんからもお聞きしました!自分も工場の皆さんのおかげで実現出来たこのTシャツ、周りの人に褒めてもらった時は本当に嬉しいです!(笑)

逆の質問になりますが、仕事をしていて何か辛いことって聞いても宜しいでしょうか?

柔軟に果敢に挑戦する姿勢だからこそ

橋本さん:そうですね…、オーダーメイドの依頼を頂いた時は、どうしても有るものを売るわけではなくて、素材、色、クオリティ、を考慮して無いものを一から作ることになります。

橋本さん:そしてどうしても金額も考慮しながらの擦り合わせが必要になりますが、お客様が求めているものに対して、これで満足して頂けるかどうか、実際に納品した後に満足して頂けたかどうか、という不安がどうしても付いて回ることでしょうか…。

Mako:なるほど、新しい依頼に対しても果敢にかつ柔軟に対応する姿勢だからこそ生まれる辛さ、という事ですね…。ありがとうございます。

次の質問になるのですが、現場から見た今のファッション業界にはどう感じていらっしゃいますか?

市場の変化+産業の継続のための変化

橋本さん:段々と好みが細分化され、多少高かったとしても自分の好みに合った本当に欲しいもの、人とは違ったものが欲しいといった欲求が高まってきていると気がしています。

今までは私たちの産業自体、そしてそのマーケット自体も物量が重視されていましたが、そのマーケットの変化に対応し時代に取り残されないためにも、私たち自身にも変化が必要だと思います。

橋本さん:そのブランドさんの大きさに関わらず、小ロットだとしても本当にクオリティの高いモノを展開している方たちと、「多品種・小ロット・短サイクル」の対応をしながら、どう接点を持っていくかが今後の鍵になってくるのではないでしょうか。

ただその際も、その時だけの短期間の取り組みではなくて長期的に接点を持ち続ける事が出来るような仕組みを持ち、どちらかが衰退してしまう事のないようにするのが大切だと思います。

Mako:良いモノを作り、そのモノの価値を理解して頂いている方に適正な値段を提示して、お互いがWin Winな関係を保てるようにする、それが大切だという事でしょうか?

橋本さん:そうですね。お互いに対等な立場であり続けるという事が大切だと思います。

染色工場だから知っている豆知識

Mako:ありがとうございます!自分自身同じ意見を持っていたので、より一層自分の考えを深めるきっかけになりました。

最後になるのですが、消費者の方が知って得するような、染色工場ならではの豆知識を教えて頂けませんか?

橋本さん:例えば綿素材の商品なのに触った感じがガサガサするような感触ですと、染色の工程の中での洗いが上手くいっていない商品である場合があります。またご存知の方もいるかもしれませんが、お風呂の残り湯などを使ってお湯で洗濯すると服が色落ちする場合があるので、気になる場合は水で洗濯した方が良いですね。

本当に色落ちを避けたい場合は色落ち防止の加工を施すことも出来ますので、選択肢の一つとして知って頂けると良いかなと思います。

Mako:ありがとうございます!HiKEIのTシャツは初めて袖を通した瞬間から最高の仕上がり、肌触りでした!(笑)橋本さん、今回は貴重なお時間をありがとうございました!

橋本さん:良かったです!(笑)こちらこそありがとうございます。また何か力になれる事があれば仰ってくださいね。

インタビューを終えて

生地の染色という生産の中でも、消費者との接点がなかなか無い業界にも関わらず、mimimo cafeやリカラーサービスを通して、最終消費者との接点を持とうとする土田産業さんの姿勢は、生産現場のこれからのヒントが詰まっているように感じました。自分の服を染め直して世界でひとつだけの服ができあがる、それは生産背景と自分の人生(背景)を纏うことなのかなとも思いました。